George Motz

George Motz
2007年にスタートし、ニューヨークではおなじみのイベントとなって久しい「フードフィルム・フェスティバル」。
2020年4月に迫る東京初上陸を前に、イベントの魅力や、「実は裏では……」などの秘話(裏話?)を聞き出すべく、4名にインタビュー。
今回は、イベント主催者であるジョージ・モッツに聞きました。

映像作家やテレビ司会者など、いろいろな顔を持つジョージ・モッツ。ハンバーガーエキスパートでもあり、2005年には自身で監督から撮影、編集まで行ったドキュメンタリー映画『Hamburger America』を完成させました。彼こそ、フードフィルム・フェスティバルのディレクターであり、創始者。

「フードフィルム・フェスティバル」とは?
「食べてみたい!!」って思ったものが目の前に現れる体験型イベントさ

「フィルム・フェスティバル」とは、上映会のこと。ということはフードフィルム・フェスティバルとは、食べものにまつわる映像作品を鑑賞するイベントではないのでしょうか。

「ひと言でいえば、マルチな体験型イベントと表現すればいいのかな。おいしそうな食べものの映像を観たら、『うわあ、めちゃくちゃ食べてみたい!』って思うじゃない。このイベントでは、そう思った瞬間に、まさにスクリーンに映っていたものが目の前に現れて食べられるのさ」

観る者にとっては夢のようなこのアイディアをジョージが思いついたのは、2007年。

「友人と食事をしながら、僕の作品『Hamburger America』について話していたら、『君の作品をレストランで上映して、出てきたハンバーガーを食べられるようにしたらいいんじゃない?』って彼が提案してくれたんだ。試しに実行してみたら、これが大ウケ。それで、もっといろんな食べものの映像作品を制作して、フードフィルム・フェスティバルを開催することにしたんだよ」

とはいえ、運営側にとってはオペレーション難易度がとても高いイベントなのだそう。

「実現できているのは、セス・アンガーのおかげ。彼は当初、観客として来場していたんだ。イベント終了後に僕のところに来て、『これはすごいフェスティバルだ。でも君たちのやり方はぜ〜んぶ間違ってると思う!』って言うもんだから、思わず『君、採用!!』って言っちゃったよ。本当にその場で頼んで、エグゼクティブ・プロデューサーを引き受けてもらったのさ。どんなに大変でも『観て、食す』というモットーに固執すべきだというセスの信念があってこそ、いまの形のイベントがあるんだ」

「フードフィルム・フェスティバル」の魅力って?
未知の食べものに出合えて、映像の登場人物に会えることかな

情報感度が高いニューヨーカーであっても、フードフィルム・フェスティバルの映像作品に登場する食べものには驚かされることばかり。
「主催者である僕自身も、作品から新しい食の知識を得ているんだ。僕の食ネタリストに今年加わったのは、鮒ずし。あとベネズエラで食べられているハヤカスっていう蒸しパンのようなもの。どちらも存在すら知らなかった」

作品の登場人物が会場で実際に料理を振る舞ってくれることも、魅力の1つだと言います。

「Keizo Shimamotoくんが劇場まで来てくれたこともあったんだよ。“ラーメンに取り憑かれた男”として出品作に登場していた彼は、もともとは上映を手伝いに来ただけだったんだ。でも日本から食材をたくさん持ってきたからと、450杯ものラーメンを振る舞ってくれて。こういったふだん会えない料理人や映像制作スタッフと直接話す機会が持てるっていうのも、このイベントならでは」

13年間で、もっとも印象深いエピソードを教えて!
上映権がなかなか入手できないレア作をお披露目できたんだ

ジョージとセスが、絶対に上映したい!、と熱望した作品があったのだそう。
それは、売れないラーメン屋を舞台にした伊丹十三監督作『タンポポ』。

「オムレツやらラーメンやら炒め物やら、とにかく大量の料理が登場するんだ。でも上映権を持っている人が見つからなくてね。権利関係に詳しい友人が手伝ってくれて、何年もかけてやっと公開できた」

気になるストーリーは、なんとコメディ。

「死んだ母親に向かって、父親が『起きろ、夕飯作ってくれ』というようなセリフを言うんだよ。そうしたら母親は起き上がって豚の炒め物を作って、また死ぬんだ(笑)。ちなみにこのシーンが流れた瞬間、観客にはこの豚の炒め物がサーブされたんだよ。こんなクレイジーなストーリーでも、フードフィルム・フェスティバルの観客は許容してくれるんだから。思い出深いなあ」

「フードフィルム・フェスティバル」を最大限に楽しむコツは?
お腹を空かせて来ること。そして僕らに身を委ねてほしい

劇場の席についたら、上映後に立ち上がるまでおもてなしするよ、とジョージ。

「くれぐれも事前にごはんを食べてこないでね。上映中はもちろん、アフターパーティーでも変わり種フードをたっぷり堪能できるから。そこで何が起こるのか知り尽くしている僕らに身を委ねることで、フードフィルム・フェスティバルの本当の面白さを実感できるはず」

このイベントの面白さは日本でも同様に体感してもらえると思う、と自信ものぞかせます。

「東京というすばらしい食文化をもつ都市の人びとに、世界中のフード・フィルムを披露できることを楽しみにしているよ。勝手ながら、東京とニューヨークの人の食に対する姿勢って似てると思ってるんだ。どんなものでも面白がって、受け入れて、食べる準備ができているという点でね。食べることが大好きな東京のみなさん、2020年4月を楽しみに待っててね!」

Seth Unger

Seth Unger
2007年にスタートし、ニューヨークではおなじみのイベントとなって久しい「フードフィルム・フェスティバル」。 2020年4月に迫る東京初上陸を前に、イベントの魅力や、「実は裏では……」などの秘話(裏話?)を聞き出すべく、4名にインタビュー。
今回は、エグゼクティブ・プロデューサーのセス・アンガーに聞きました。

米国内で数々のイベントやテレビ番組の制作に携わり、「フードフィルム・フェスティバル」ではエグゼクティブ・プロデューサーを務めるセス・アンガー。ジョージ・モッツの話にもあったように、セスが同イベントのスタッフに加わったのは偶然。

「そうそう! 2007年に初開催された際に観客として来場して、ジョージに『アイディアはすごい、でもやり方を完全に間違ってる!』って物申したんだ」

運営サイドにまわるほど「面白い!」と感じた点は?
2つのフェスティバルを同時進行させる唯一無二の存在だからさ

自分が抱いた違和感をクリアにして、もっといいイベントにしたい! と、運営スタッフに加わるほどセスが興味を惹かれたのは、イベントのコンセプトである「観たものを食す」という点。

「スクリーンに食べものが映し出されて、『どんな味なんだろう?』とお客さんが思案しているところに、その食べものを提供する。こんなこと、いままで誰もやってこなかったことだし、現時点でもやっているところはほかにないよ」
このイベントが唯一無二の存在なのは、「観たものを食す」というコンセプトを実現させるのがとても難しいから。

「フード・フェスティバルとフィルム・フェスティバル、イベントを2つ同時開催しているわけだからね。映像制作と料理提供の現場という、舞台裏を想像してみて。まず、食べものが登場するシーンがいつなのか、1秒ごとに時間を計測する必要がある。そして観客が味を連想するタイミングを見計らって料理を仕上げ、ピタリの瞬間を狙って提供するんだ。これを全作、全シーンでやるのさ」

「フードフィルム・フェスティバル」を楽しむコツはある?
冒険者精神で来場することだね

どんな内容の映像作品が出品され、作中にどんな食べものが映し出されているのか。食材自体が目新しいものなのか、はたまた料理や味つけが斬新なのか。劇場に足を運んで、映像を観るまで、何が食べられるのか、観客は事前に知ることはできません。

「レストランを新規開拓するように、新しいものに挑戦する冒険者の心持ちで来てもらいたいな。オープンマインドで、そこで出されるおまかせの逸品はなんでも食べちゃう、っていう感じで」
ふだんなら食べるのを躊躇するようなものであっても、巨大スクリーンにおいしそうにアップで映し出されると、「食べてみたい!」という誘惑からは逃げられなさそう。

「僕の知り合いは魚が得意じゃなかったはずなのに、鮒ずしを食べたらハマっちゃって。『おかわりしてくるね!』なんて言ってたな。ね、このイベントの影響って、すごいでしょう?」

「フードフィルム・フェスティバル」が日本に上陸したら……?
東京に流れるバイブスにぴったりハマるはず

ニューヨークでは13回を迎えたフードフィルム・フェスティバル。が、手練れのスタッフを擁したとしても、海外で開催するのは難易度が高いとセスは話します。

「でも東京には魂というか、ある種のバイブスが流れていて、そこにハマると思うんだ。ニューヨークとは人の価値観や食文化が違ったとしても、映像作品のアート面でも、フード面でも、共感してもらえるはず。一度きりの開催で終わらせず、日本各地で開催していけたらいいな」

Brad Farmerie

Brad Farmerie
2007年にスタートし、ニューヨークではおなじみのイベントとなって久しい「フードフィルム・フェスティバル」。
2020年4月の東京初上陸を前に、イベントの魅力や、「実は裏では……」などの秘話(裏話?)を聞き出すべく、4名にインタビュー。
今回は、出品作の審査員であり、映像作品の出品経験ももつ、シェフのブラッド・ファーマリーに聞きました。

人気ダイニング「Saxon + Parole」のエグゼクティブシェフを務めるブラッド・ファーマリー。旅好きで、未知のものに敏感。旅先での食体験からインスピレーションを受けて生み出すひと皿は、舌の肥えたグルマンをもうならせています。
そのブラッドも、かつてフードフィルム・フェスティバルに参加し、映画やドキュメンタリーの制作を手がけ、来場者に食にまつわる気づきを与えてきました。

過去の出品作について教えて
アジアの旅路で出合った食への感動をまとめたんだ

ブラッドの代表作ともいえるのが、2010年に指揮した『Brad Farmerie’s Southeast Asian Street Food Market』。揚げたイカのチップスやポピア(マレー風春巻き)などを映像展開し、会場で提供。なかでも注目を集めたのが、豚の血を使ったアイスキャンディー。彼がアジアを旅した際に出合った食材や料理を映像にまとめ、会場で実際に振る舞い、評判となりました。

「フードフィルム・フェスティバル」が東京に上陸したら……
爆発が起きるんじゃない!?

「フードフィルム・フェスティバル東京は、クレイジーなくらい、すごいことになるだろうね。日本人は食と芸術に造詣が深く、それぞれ細部にまでこだわり抜くタイプが多いと思うんだ。彼らがもつその情熱が、『料理』と『映像』という形で1つになったら……爆発が起きるんじゃない!?」

ちなみに、ブラッド自身が再びメガホンをとる可能性は……?

「セス・アンガーやジョージ・モッツのようなクリエイティビティにあふれる人たちとアイディアを具現化していく体験はめったにできることではないから、機会があればぜひまた挑戦したいと思っているよ」とのこと。次回以降に、大いに期待。

「来場のみなさんは、目をしっかり開けて、お腹を空かせた状態で来てくださいね。絶対にハッピーになれるから!」

Mark Rosati

Mark Rosati
2007年にスタートし、ニューヨークではおなじみのイベントとなって久しい「フードフィルム・フェスティバル」。
2020年4月に迫る東京初上陸を前に、イベントの魅力や、「実は裏では……」などの秘話(裏話?)を聞き出すべく、4名にインタビュー。
今回は、出品作の審査員を務めるマーク・ロサティに聞きました。

マーク・ロサティといえば、人気ハンバーガー店『シェイク・シャック』のフード・ディレクター。同店のすべてのバーガーを考案し、世界に発信する気鋭の人物が、「フードフィルム・フェスティバル」の審査員を務めています。

どんな点をジャッジしているの?
どれだけ心を揺さぶられるか、がポイントだね

アメリカのグルメシーンの中心的存在となったマークですが、料理人を志す前は映画学校に通っていたと言います。

「映画やテレビが大好きでね。物語のアイディアを思いついたら、それを映像を通して人に伝えたかったんだ。でも映像と同じくらい食べものも好きで。結局は料理の道を選んだんだけど、料理を作るのも映像制作と同じ。僕自身がどんな人物なのか、何に感動したのかといったことを料理の形にして伝えているんだよ」

だからこそ、知らない食材や、人が作った料理に感銘を受けることも多いそう。

「出品作は、登場するフードがいかにユニークか、っていうことよりも、全体を1つのパッケージとしてみて、ストーリーの面白さや映像の美しさ、編集技術、音楽の使い方が総合的に優れていて、いかに心に響くか、を重視しているよ。すばらしすぎて、審査員であることすら忘れてしまうくらい熱中する作品すらあるんだ」

過去、もっとも印象的だった作品は?
抹茶に関する作品かな。2度も観てしまったよ

「日本を舞台に、抹茶にフォーカスした作品かな。抹茶の歴史や、茶葉を粉状にする技術など、抹茶について実によくわかる作品だった。映像もすごく綺麗だったし、短編の映像に情報が凝縮されていたから、2回も観ちゃったよ」
このように、すでに知っている食材であっても、その食材が持つ背景に驚かされることもあるのだそう。

「2019年の出品作にあった、南米の男性の話もよかったなあ。おばあさんに教わった伝統的な手法でミルクやバターを作るんだ。その思い出を彼の息子や孫に話して聞かせるんだよ。食から紐解かれるストーリーに感動したね」

フードフィルム・フェスティバルが日本に上陸したらどうなる?
なんで今までなかったの!? って思うくらい楽しめるはずさ

垂涎ものの映像が、お腹いっぱい堪能できるフードフィルム・フェスティバル。日本人にも絶対に楽しんでもらえると思う、と豪語します。

「日本人って、おいしいもののためなら行列も厭わないし、すごく早くから予約を取ったりするじゃない。料理の作り手は細部までこだわり抜くし。食を楽しむ側と、提供する側とで、類を見ない食文化を構築しているよね。フードフィルム・フェスティバルは、インスピレーションを掻き立てられるうえに、その場で食べることもできるから、観たもの、食べたものについて語り合いたくなるイベント。『なんで今まで日本でやらなかったの!?』って、きっと思うはずさ」